停留精巣(ていりゅうせいそう)
停留精巣とは
胎児期、精巣はお腹の中にありますが、徐々に陰嚢の方向に引っ張られ、生まれる頃には精巣は陰嚢の中に収納されるのが正常な発生です。停留精巣とは、陰嚢の中に降りてくるはずの精巣が、途中で動かなくなりお腹の中や足のつけ根、陰嚢の上などに留まっている状態のことをいいます。精巣は、男性の体の中で精子をつくったり、男性ホルモンを分泌したりする臓器ですが、涼しい陰嚢内にあってこそ正常に機能します。温かいお腹の中では精巣は本来の機能を発揮できず不妊の原因になると言われています。また、陰嚢内に固定されていない停留精巣は、精巣がねじれて激痛を伴う「精巣捻転」を引き起こすリスクがあると言われています。
原因
精巣が陰嚢内に降りてこない原因としてホルモンの異常や精巣の発育不全、精巣下降に関連する靭帯や筋肉の異常などが考えられていますが、はっきりした原因は定まっていません。
好発年齢
停留精巣は、在胎37週以降の正期産児よりも、在胎37週未満の早産児に多く見られます。在胎週数に関わらずみると、新生児の約5%に停留精巣を認めますが、生後6ヵ月までに自然に降りてくることもあるため、すぐに手術が必要になるわけではありません。1歳になっても精巣が降りてこない場合は手術が必要となりますが、その頻度は1%(100男児に1人)と言われています。
症状
停留精巣は、触ったり見たりしたときに「陰嚢内に精巣が触れない、陰嚢が片方小さい」などと気づくことがあります。乳児健診では陰嚢診察は必須ですので、3ヵ月健診などで停留精巣を疑われ、専門施設へ紹介されるケースが多いです。基本的には痛みなどの症状はありません。
不妊症
温かいお腹の中や足の付け根(そけい部)に精巣が留まっていると、精巣は本来の機能を発揮できず男性不妊の原因になると言われています。
精巣のがん化
がん化する原因は未だ不明ですが、正常の精巣と比較して停留精巣の方ががん化するリスクが高いと言われています。停留精巣の手術で陰嚢内に精巣を固定したとしても、将来のがん化のリスクを軽減できるという明らかな根拠は示されていません。しかし、もしがん化しても陰嚢内にあれば「片方だけどんどん固く、大きくなってきた」と本人が気づきやすく早期発見に寄与します。
精巣捻転
精巣がねじれてしまうことで精巣へ血液が届かず激痛を伴い、放っておくと精巣が壊死してしまう可能性があるため、緊急で治療が必要な病気です。お腹の中や足の付け根にある時、精巣は固定されていないため捻転を生じる可能性がありますが、精巣が陰嚢内に無い場合は診断が難しくなり診断の遅れにつながる可能性があります。診断が遅れると精巣が壊死し、精巣摘出術を要する場合があるため早期発見が重要な疾患です。
検査・診断
触診にて精巣を触れるか触れないか、触れる場合はどの位置に存在するか診断します。触れない場合はお腹の中に精巣が留まっている(腹腔内精巣)可能性を考え、さらなる精密検査を要します。
触診に続いて超音波検査を行い、体の表面から精巣の位置を確認します。精巣を同定したら、反対側の正常な精巣との位置関係やサイズの左右差を計測します。
治療
治療の基本は「精巣を陰嚢内におろすこと(精巣固定術)」です。生後6か月を過ぎても自然におりてこない場合は、1歳までに手術を行うことが勧められています。
手術は全身麻酔で行い、そけい部にある精巣を引っ張って、陰嚢の中に縫い付けて固定します。手術時間は1時間程度で、通常は1泊または日帰りの入院で済むことが多いです。腹腔内精巣の場合は2回手術を要することもあります。
乳児健診やご家庭で気づかれ停留精巣と診断した場合は、提携病院へご紹介いたします。
ご本人・ご家族の方へ
乳児健診等で停留精巣を指摘されましたら、医療機関を受診してください。
院長の一言
停留精巣とは別疾患の「移動性精巣」というものがあります。私が東京女子医科大学八千代医療センター小児外科で勤務していた際、精巣を陰嚢内に触れない、というお子さんが多くいらっしゃいました。触診にて停留精巣か移動性精巣か判断をつけ、生後6ヵ月以降の停留精巣であれば精巣固定術を選択します。一方、移動性精巣の場合は明確な手術適応基準がありません。しかし、日常的に精巣エコーをしていた私たちは、移動性精巣の患児で移動している側の精巣 (片側or両側) の発育が悪く、徐々に精巣サイズに左右差が認められることに着目し、一定の左右差を認める患児、あるいは両側移動性精巣で年齢相応の精巣サイズを持たない患児に対し、精巣固定術を施行して参りました。そのようなお子さんの術後精巣サイズを長期間フォローし研究を続けた私の同期の中田医師は以下のように論文としてまとめ、日本小児外科学会の優秀論文賞にも選ばれていました。
中田千香子,他.超音波検査による移動性精巣術後の精巣発育の検討.日小外会誌.57: 591-595, 2021.
インターネットで検索し、無料で読めますので、興味のある方はどうぞ。
思い入れのある疾患ゆえ、「一言」ではなくなってしまいました・・。
提携病院
東京女子医科大学八千代医療センター 小児外科

